「あ、暑い…」
身体中から汗をかいて、中庭で寝転がっていた。中庭と言っても、魔聖者を訓練するために作られた施設の中にある中庭であり、何もない中庭だ。
「午前中、ずっと走らさせられるとか鬼畜だろ…」
なぜ、こんなに疲れているかと言うのは、基礎体力づくりの為に、米俵一俵を背負って、田んぼ道をひたすら走らさせられたのである。
「本当、疲れた!編成の仕方を間違えているだろ…」
横から声が聞こえてきた。涼太は横の方を見てみると、黒髪で外見は特に特徴が無いような少年だった。黒髪の少年も寝転がっており空を見ていた。
「もう少し楽に訓練がしたいもんだね。そういえば、会話は初めましてだな」
言い終わると黒髪の少年は、こちらに顔を向けて、自己紹介を始めた。
「俺の名前は光村。山間にある田野上集落出身で好きな色・・・」
聞いてもいないことを淡々と喋り続ける人の様だ。まさに開いている口を塞ぎたいところだ。
「・・・ところで、君の名前は?」
光村が聞いてきたので、仕方なく自己紹介をした。流れ的に自己紹介をしなくてはいけない展開なのだから…
「名前は涼太よろしく」
光村は呆れたようにこちらを見ている。地面に座りこちらに体を向けて言う。
「お、おう。よろしく、もっと色々と紹介されたかった…」
どうやら自己紹介の内容が薄くて落胆されている模様。自己紹介でそこまで落胆出来るものなのかと驚いたのは初めてだ。そう言うものなのかな?気がついたら夕日に照らされていた。
その日の夜
今日は早めに寝てしまったために、丑三つ時に起きてしまった。布団から出て少し散歩をすることにした。夜出歩くのは慣れていたため猫目の様だ。目的地がなく気の向くままに散歩するのは気持ち良い。このような生き方をしたいもの。
しばらく歩いて気がつくと森の中を歩いていた。前方に光が差し込んでいるところがあり、どうやら開けた場所に出られる様だ。開けた場所には泉があった。泉の底にあるものがはっきりと見えるほど、水が澄み切っていた。泉の周りには木々が生い茂り、まるでここだけ別空間にすら思えてしまう。そして、泉の真ん中に見知った人影が見える。俺は人影に向かって大声で言った。
「このような場所で何をしているんですか?」
人影はこちらに気がつき泉を歩いて来ている。正確には泉の水面の上になるだろうけど。
人影はこちらに向かって言って来た。
「涼太ではないか、このような場所に来るとはどうしたのか?」
この声は先日家に来られた竹中半兵衛様だった。ここに人が来るのが珍しいのか、不思議そうな顔で半兵衛様はこちらを見ていた。
「寝付けなくて、少し散歩をしていたら、ここに辿り着きました」
水面の上を歩き終わっても半兵衛様が不思議そうな顔で
「ここには結界を張っておるのだが…まぁ、いい。それより、先日の返答はまだか?」
先日、半兵衛様が長屋に来られた際に、
「力を上手く使えば日の本一の兵になれる。だが、今のままでは上手く力を引き出すことが出来ない。そこで、夢幻隊に勧誘をしたい」
とお誘いを頂き後日に返答すると言うことだった。夢幻隊とは数ある魔聖部隊の中でも一二を争う部隊である。
「半兵衛様、折角のお誘いですが断らせて頂きます。まだ、半人前のため基礎から体を作っていくために現状の状態で練度を上げていきたいと思っています」
もっともらしい理由を言った。そんな強い人たちに囲まれて強い敵と戦いたくないって言うのが本音だ。すると、半兵衛様は全てを分かりきっていたかのような顔で
「そうか、無理知恵はしないから気が向いたらいつでもいいぞ。ちなみに、あの獣道を進むと帰れる」
と言いこちらに背中を向けて、その場を去った。正直、半兵衛様は怒らせたら怖いと感覚的に理解をした。
「さて、帰って寝るか」
散歩で気分転換と歩き疲れで眠気が出てきたのだ。
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