「はぁ…はぁ……」
俺は川沿いをひたすらに走っていた。幸い滝壺に落ちたので、致命傷は免れた。あの一瞬が何で起きたが分からないが、一瞬の何かで、10町ほど飛ばされてしまったようだ。この状況の中で、敵に遭遇しないとは限らないのだが、霧がかかっており、視界の状況は最悪だ…
その時、足元で何かを踏んだ感触がした。恐る恐る足元を見てみると、そこには、先程まで共に行動をしていた味方がうつ伏せに倒れていた。
「おい、大丈夫か?!大丈夫か?!」
声を掛けたが返事は無かった。体を仰向けにしてみると、死んでいることを理解することが出来た。死因は出血多量。心臓部を刀でひとさしされている様だった。そこから、血が溢れ出しており、地面も真っ赤に染まっていた。
「う、嘘だろ?誰か近くにいるのか?!」
とっさに、周りを見渡すが霧のせいで、敵どころか遠くを見渡すことが出来ない。ここにいるのは危険だと感じ、その場を後にしようとした、その時、何者かが近づいてくる気配がした。繰り返し声を出す。
「誰かいるのは分かっているから、姿を見せろ?!」
返事は無かった…気のせいかと思い、気を緩めた時には、すで遅かった。刀ような武器が右脚の太ももに刺さっており、右脚の太ももから流血していた。片膝を立てて、刀と太ももをまじまじと見る。刀は太ももを貫通していたため、刀を抜くと出血多量で死ぬことは明確だろう。姿が見えない何者かに向かって
「このような場所に飛ばしておいて、何が目的だ?!姿を見せろ!」
力を振り絞って声を出した。少しずつ意識が薄れていくが、弱気な姿を見せると駄目だと直感して、なんとか立ち上がる。
「ほう、中々の強者だな。しかし、一つ間違えていることがあるぞ。」
霧の中から何者かの声が聞こえた。次第に方向感覚も失いはじめ、声の方向も分からない。
「お前達がここにやって来たのだ。」
今の俺では、言葉の意味をすぐに理解することが出来なかった。言葉を返す力も無く、ただただ聞くことしか出来なかった。そして、その場で倒れ込んでしまい。目の前が次第に暗くなっていく。
「苦しいか?ならば、安らかに眠るといい・・・」
何者かがいい終わる時に、急ぎ足でこちらに向かって来る音と共に、聞き覚えのある声が聴こえて来た。
「涼太!大丈夫か?!なんだ、太ももに刀が刺さっているのか?おい?!」
この淡々と喋り続ける声は光村の声だ。光村の声を聞くや否や、
「涼太、今行く」
と冷静なままで、こちらに向かって来る菊の声もした。このまま、敵が増えたまま戦うのは得策では無い。と考えたのかは分からないが、霧の中から
「今日の所は興が冷めた。次は会えることを楽しみにしておこう。」
と言い残し、邪気が消えると共に、霧も晴れた。
「一体、何が起こったんだ?どう思う菊?」
「私も分からないが、とりあえず長屋で涼太の手当をしよう。」
「そうだな。それからだな」
その後、俺は誰かに抱えられた感覚までは、覚えているが、そこから先は覚えていない。
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